パオロの復讐

前回、ロレーナと別れてから

憎しみに染まったパオロの話をしたが、

今回はその続き。

パオロは、

本当に裁判所に訴えてしまった。

裁判で勝つには色々と証拠を固めておく必要があり、

そして、それは極力相手にとってダメージを

与えるものでなければならない。

そう考えたパオロは、

勤めていた会社の一部資料を

禁止されているにもかかわらず、

ロレーナが自宅に持ち帰ったことを、

その会社に告発させたかった

そうとなれば、前進あるのみ。

パオロは友達と辞書を使いつつ、

必死に文章を英語に直していた。

これが、本来の裁判に意味が

あるのかどうか分からないが、

とにかく彼は必至だった。

体が弱っていても、

こういうことには体が動くらしい。

憎しみでギラギラしたパオロは、

仕返しや相手をいためつけることしか頭になく、

それがもはや生きがいのように

なってしまっているようだった。

彼は憑かれたように、

毎日そのための手段に頭をひねっていた。

ある日、

「俺とロレーナがだめになったのは、

ロレーナの兄に問題があると思うんだ」

と言い出した。

パオロの説明ではロレーナの兄は

尋常な頭の持ち主ではないのだという。

どんな人なのか知らないが、

パオロの中では、この兄のせいだと

すでにインプットされてしまい、

彼はこの兄を打倒すべく、

前に進み始めていた。

後日、自宅の電話が鳴ったので出てみると、

それはパオロからだった。

「ふんっ!あいつの顔が見たかったよ。

あまりにも腹が立つから、

あいつの車を燃やしてやったんだ」

というではないか!!

ええぇぇぇ!!!

思わず、

言葉にならない言葉を発してしまった。

映画じゃあるまいし、

そこまでする必要があるのだろうか。

そして、それを本当に行動に起こしてしまうなんて、

想像もしなかった。

とにかく、彼は怒り狂っているということだけが

事実として分かった。

それがどれぐらいのものなのかもわかった。

続けて、

「俺は今度、仕事を変えようと思うんだ」

という。

仕事に意欲があるのはいいことだと思い、

「そうなの。頑張ってね」

と返事しておいた。

まさに、その1か月後のこと。

再びパオロから電話があったので出ると、

昔、私が住んでいたエリアにある、

とある場所への行き方を聞いてきた。

そこに何があるのか分からないが、

とりあえず行き方を一通り説明してから、

「そこに、何があるの?」

と聞いてみた。

すると、

「俺は警備員の仕事がしたいんだ。

そのためには銃を持たないといけないから、

銃を持つための資格を取るんだ。

そこで、そのコースをやってるんだよ」

という。

妙な胸騒ぎがしないではなかったが、

警備員の仕事に就きたいといっているのだから、

銃を持つためにはコースを取らないと

いけないのだろう。

「頑張ってね」

と、また当たり障りのない返事をしておいた。

そしてさらに、その数か月後。

私はもう一度車の修理をお願いしたくて、

パオロのお家へお邪魔すると、

穏やかな彼のお母さんが出迎えてくれて、

「息子はどうなっているのやら…」

と嘆いていたが、

顔はいつも朗らかで悩んでいるようにはみえない。

しばらく、お母さんと雑談を交わしていると、

奥のほうからパオロがやってきた。

なんと手には銃を手にしている。

「やあ!コースも終えて、

やっと銃が持てるようになったんだよ!」

と笑顔で爽やかに話しながら銃を見せてくれたが、

笑えない。

なにせ、目の前にあるのは、本物の銃なのだ。

そして、

「あいつの兄貴が俺を襲いかかってくるような

ことがあったら、

その時には、この銃であいつをぶち抜いてやる!

とまでいうのだ。

この人はマジか!?

もう、よく分からなくなってしまった。

彼は一体、どの世界に生きているのだろうか。

もはや、私と同じ世界にいる人間ではなくなってしまった。

すっかりハードボイルドの世界に

生きている彼の頭はもう尋常ではなかった。

何かに憑かれたように復讐しようと、

彼の頭の中では、そればかりが駆け巡っていた。

毎晩、怒りで眠れないパオロのために

私の夫は、お茶を飲んでリラックスするようにと

日本土産のほうじ茶をプレゼントしたことがある。

お茶の入れ方なんぞ知らない夫は、

「片手鍋にお茶の葉を大さじ3杯入れて、

グツグツと沸かして飲むんだよ」

とアドバイスしたのだが、

パオロはそれに従ったようだ。

真っ黒なお茶を飲んで、

ますます眠れなかったらしく、

パオロの目はいつもにもまして充血していた。

そうこうしているうちに、

いよいよ裁判1回目の日がやってきた。

彼は怒り狂った顔に血走った目をしながら

裁判所へと向かった。

そして、裁判所にはロレーナが問題の兄と

一緒に現れたのだが、

ロレーナの姿は昔と同じ人だと理解するのが

困難なほど変わり果てていた。

異常なまでに太って、

髪の毛も少なくなっていたのだ。

きっと、彼女も大きなストレスに

体がむしばまれているのだろう。

その日の公判は何事も起きず、

穏やかに終わった。

最後の審判はもう少し先とのことなので、

私はそれまで彼らの間に何も起こらないことを願って、

見守るつもりでいる。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です